記憶と。

 この事を全て振り返るのに、彼女が居なくなったあの日から2年かかった。
2年、その月日が長かったのか短かったのかは解らない。

 ふと、考えることがある。
僕があの時、綾子を追いかけていたのなら、違う未来はあったんだろうか。
綾子は死ななくてすんだのだろうか。
僕は何故綾子が死んだのか、その理由は永遠に聞かないことにした。
僕が知らない綾子の高校3年間で、なにがあったのかを僕は知らない。
そんな僕が、綾子の人生の最後に、深入りするわけにはいかなかった。
僕は、綾子と別れた日から、なにごとも完結させるのが苦手になった。
終わらせるということは、そこから先が無くなってしまうということだから。
それは情けないことだということは自分でも解っている。
でも、人生の完結ほど、振り返るのが辛いことはないと思った。
そして、綾子の最後に涙を流して以来、僕は泣けなくなった。
涙は、愛する人の為だけに、流すものだと、心に誓った。

 そして僕は2年ぶりに、アルバムを開いていた。
そこには、僕の大好きだった笑顔が写っていた。
綾子がこの世界からいなくなって2年。
最初はちょっと思い出すだけでも、他人の綾子という名前を見るだけでも、涙が出そうになっていた。
それが2年もたつと、アルバムの中の綾子を見ても、驚くほど冷静でいられた。
人は、少しずつ、少しずつ、記憶を入れ替えて行くのだと思う。
そして、少しずつ、少しずつ、忘れていくんだと思う。
それでも、

「ユキ。」

この声だけは、忘れることは出来ないと思う。
綾子は、僕に人を愛するということを教えてくれた。
そして、愛される喜びも教えてくれた。

僕は、ずっと、これからも一生、大好きだった人の思い出と共に、生きていく。