記憶と。

 学校は夏休みも終わり、2学期が始まっていた。
そして最初のホームルームで、当たり前のように担任が席替えを決めた。
ただ2学期だということで、好きに席を決めることになった。
僕と綾子は、1学期と同じ位置で、2人とも机を動かすことはなかった。
もちろん健二もそのままだった。
休み時間に健二が後ろから飛びついてきた。
「おまえ等なんかロマンチックなことやってんな」
「なにが?」
「なにがって・・・。無意識かよ。幸せなやつらだな。」
「だからなにが。」
「席、動かす気まったくねーじゃん。」
健二に言われて自分で始めて気が付いた。
後ろの方で、それでいて隣には好きな子がいて、友達がいて。席を替える気がまったくなかった自分に気が付いた。
入学したときにはこれからどうするのかと思っていたのが。たった4ヶ月でまったく逆になっていた。
その反面、綾子が席を動かすのではないかという不安もあった。
しかし休憩時間が終わっても、綾子の机は僕の横にあった。
授業のチャイムが鳴った。僕たちは自分の席に戻った。
僕は思い切って綾子に聞いてみた。
「席、このままでよかったん?」
キョトンとした目で、綾子が聞いてきた。
「なんで?」
僕はいろんな答えを気にしながら聞き続けた。
「いや、友達とかと同じ班じゃなくて良かったの?」
「ユキはさ、私に移動して欲しかったの?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ。」
「じゃあいいじゃん。私はここが良いんだからさ。」
それは、僕にとって一番うれしい答えだった。
そしてそれは、僕がここにいるからと錯覚させるほど、あっさりした答えだった。
隣で健二が横腹を突付きながら笑っていた。