「やっと終わった。真一、俺はお前から教えてもらった店に行ってくるけんが、先にあがるぞ?」

夕方になり、ようやく仕事も終わり魁斗は真一に視線を向けた。

「わかりましたよ。後は僕がやっておきますので先に上がってください」

真一は手を上げ魁斗に応えた。魁斗は仕事現場からバイクに乗り、真一から教えてもらった店に向かった。

「ふぅ-、やっと見つけた」

魁斗は、すぐにみつかると思ってたが意外にも店は人通りの少ない路地裏にかまえていた。

「普通、人通りの多い場所に店をかまえるだろう。すみません」

魁斗は、のぞくように扉を開けた。

「はーい、少々お待ちください」

奥から、男の声が聞こえてきた。魁斗は聞き覚えのある声だと感じた。暫くすると奥から男が現れた。

「あー、あんた!今朝、俺が引こうとした!」

魁斗は体を仰け反らし驚いた。

「えっ、なぜ貴方が…」

男も魁斗と同じように驚いた。

「なぜもなにも、携帯電話の機種変更を
しに来たんだよ。俺の同僚から聞いて来たんだ」

魁斗は店の陳列棚を見回した。

「同僚?」

男は考え込み始めた。

「藤村って、奴が来とらんかったか?」

魁斗は男に視線を向けた。

「ああー藤村様ですか。はいはい来ましたよ。藤村様の紹介ですね」

男は手を叩き頷いた。

「紹介?なんやそれ。紹介がなかと、いかんとや?」

魁斗は不思議そうに男を見つめた。

「はい、うちは会員制でして紹介がないと、いけないのですよ」

男は笑顔で答えた。

「それでか…ここに来るのに随分迷ったからな…会員制ならば目立つ場所に店はかまえんけんね」

魁斗は頷き納得した。

「いきなり貴方が現れたものですから驚いてしまい申し遅れました。私は携帯Smartell店員の藍賀 稔と申します。こちらへどうぞ」

藍賀は、深々とお辞儀をして店の奥の扉を開け狭い通路に魁斗を案内をした。店の奥は薄暗く周りには、わからない精密機械だろうか部品みたいものが、かすかに見てとれた。

「藍賀さん…えらい、暗かですね明かりを付けんとですか?」

魁斗は藍賀に尋ねた。

「明るいとこは私の仕事の集中が出来ませんので暗くしているのですよ。あっ、そこ…気を付けて下さい」

藍賀は魁斗の腕を掴んだ。

「なっ、何ですか?」

魁斗は薄い中、目をこらし見つめた。

「ハハハ…私の失敗作ですよ」

藍賀は笑顔で答えた。

「ここは何なんだよ。たかが機種変更するのに何で、こんなものが、あるんだよ」

魁斗は段々と気味が悪くなってきた。さらに奥に扉があり藍賀は扉を開けた。二人は中に入り魁斗は周りを見渡した。狭い通路の暗さより明るく藍賀の顔が確認が出来た。ガラスケースの戸棚と四角いテーブルに対面した形で椅子が二つテーブルは蛍光スタンドが明かりを付けて置いてあった。昔の刑事ドラマの取り調べを思い出す。

「どうぞ、お掛けになって下さい」

藍賀は魁斗が座ったのを確認した後に座った。

「まずは、この誓約書にサインをお願いします」

藍賀はジッと魁斗を見据え誓約書を差し出した。魁斗は確認して読んだ。

「んっ、いかなる事も、あろうと自己責任?いかなる事とは?」

魁斗は藍賀に視線を向けた。

「はっ…ハハハ…大したことないですよ。形だけですから気になさらず…機種はお試し期間が、ありますから御代は頂きません」

藍賀は言葉を濁し苦笑いをした後…笑顔に変わった。

「そうか、お試ししてから決めてもよかね」

魁斗は納得して誓約書にサインを書いた。

「佐々木様ですか…後で、こちらのデータベースにも登録しておきます」

藍賀は誓約書を魁斗から受け取った。

「では、こちらの機種をどうぞ、何かありましたら連絡を下さい」

藍賀はガラスケースの戸棚から黒色の機種を魁斗に手渡した。見た目は普通のスマホに見える画面の下部にSmartellと書いてあるだけだった。

「藍賀さん、すぐに使えるのかな?」

魁斗は暫く機種を眺めた後、視線を
藍賀に向けた。

「すぐに使えますから大丈夫ですよ。私は、この後、店を締めてアフターサービスに向かいますので失礼します」

藍賀と魁斗は二人一緒に店を出て藍賀は軽く魁斗に会釈をし、その場から立ち去った。