「おいひい…」
「ふっ、…わかったから黙って食べろよ」
口いっぱいに溜め込んで言った私に葵くんは吹き出しながら言った。
とってもお行儀悪いけど、だって、本当においしかった。
こんなに、誰かに作ってもらううどんがおいしいなんて…。
病気になっても、こんなに労わってもらったことなんてなかった。
放任なくせに、世間体を気にする両親は、学校を休むことをあまりよく思わなかったし。
熱なんて出ると、責められこそしても、“大丈夫”なんて優しい言葉をかけられたことなんてなかったから。
だから、こんなにも人に看病してもらうことが幸せだって、知らなかった。
「…なんで、泣いてんだよ」
どうしてだろう。
美味しいのに。
うどんの汁の上に、ポチャンと波紋を描く。
自分が、いつの間にか泣いていることに気づいた。
「ごめ…なさい…。違うの…おいしい…おいしくて…」
「わーったって、落ち着け」
「嬉し…くて…こんな…初めてで…っ」
子どものように泣きじゃくる私は、なんとも情けない姿で。
戸惑っている葵くんに、本当に申し訳なくて。
それでも、その涙は止まらなかった。


