「好きな人なんて…いません…」
「え、いないの!?どうして―?」
「どうして…と言われても…」
好きな人がいないことに、理由なんてあるんだろうか。
あるとすれば、そう言う人に出会っていないとか、そういう気持ちがわからないとかいろいろはあるんだろうけど。
いないと答えて、それをどうしてか聞かれるなんて思わなかった。
「…勉強、勉強と言われて育ってきましたから」
「ちょこちゃん、優等生だもんね!」
「親は、世間体を気にする人で…。特別教育熱心というわけではないけれど、自分の想いを曲げられない人で…」
「固い考えの人ってことか」
「はい。…私が、学年一位なことも、それは当然のことだと、思っていますから」
一位を取ったからと言って、特別褒められたことはない。
さも、それが当然のような。
「当然って、スゲーな。でも、葵も最下位が当然なことだと俺は思ってるぞ」
「あのなぁ…」
「私は、親に逆らわないように、親を怒らせないように…そればかり考えていたのかもしれません」
それは、どれほど虚しいことか。
自分、というものを捨てて。
ただ、安全な道を行く。
それを、間違ってると思ったことはないし、それが不幸とも思わなかった。


