「その敬語」
「…癖、というか…」
「あんた、一緒にいる女には普通に話してるだろ。なんで?」
一緒にいる女、というのは友恵の事だろうか。
本当にこの人、クラスメイトの名前一つも覚えていないのね。
「…初めて話す人に対しては、つい敬語になってしまうんです」
「へえ。俺、クラスメイトだけど」
「…ちょっと前まで、私がクラスメイトだって知らなかったですよね?」
「そうだっけ?」
この人は~!!!
つくづく、適当すぎる。
「慣れないと、口調を崩せない。ただそれだけで、他意はないです」
「ふぅん。じゃあ、俺に慣れればその口調治るんだ」
いたずらっぽい笑顔を見せる。
なに、そのいたずらを思いついた子どものような無邪気な顔は。
「敬語、これから俺に使ったら罰ゲームな」
「はい?そんな勝手に…」
「罰ゲームは、…キス」
「えっ!?」
藤堂くんから発せられた思いもよらない言葉に立ち止まり見上げる。
私より一歩進んで止まった藤堂くんは私を見て勝ち誇ったように笑った。


