「文句の一つでも言ってやりたくて、会いに行った。…そしたら、目を疑ったよ」

「…」

「その娘はさ、全然幸せそうじゃねぇの。公園で、ただ時間が過ぎるのを待つだけみたいに、ただボーっとしてて。その顔には生気なんてなくて。それ見たらさ、文句を言うどころか、俺は逃げ帰ってた」



思っていたのと違う。
もっと幸せそうで、笑顔に溢れているはずだと。



「それからさ、母親の目を盗んで資料を片っ端から読んでいろいろ知った」

「…なにを?」

「俺の母親との浮気が発覚した頃から、その夫婦間はとても冷え切っていたこと。世間体のために夫婦という形を取っていたけれど、ケンカが絶えないこと」



世間体…。
その言葉は、なんだか他人事に思えない。
私の親も、それを一番気にしている人だから。



「世間からは愛人の事は揉み消せても、夫婦間で一度明るみに出てしまうと、消すことなんでできないんだよな。俺の母親は、その家族を崩壊させてたんだ」

「…うん」

「ヒステリックに喚く母親と、その母親に嫌気をさし、自分が撒いた種だというのに、酒に逃げる父親。そんな家庭に、繭子は精神的にボロボロになってた。かろうじて仕事はこなしていたけどな」

「そうなんだ…」




全然、想像できない。
今の明るい先生からは。