放課後、私は図書室に来ていた。
何冊か気になる本を選び、一冊だけ読んで帰る。
前から続けていた日課のようなことを、また始めたんだ。
でも、前と違うのは、葵くんも一緒だってこと。
葵くんは本なんて読まないから、決まって私の前に足を椅子の上にあげ、だらっとしながら私が読み終わるのを待ってる。
何度か、先帰っていいよって言ったんだけど、待っていてくれる。
読んでいる姿をまじまじと見られて、少し照れくさい。
でも、葵くんは退屈そうな感じも見せず、私が読んでいる姿を見ていた。
「…ごめんね、葵くん」
「あ?…俺の事は気にしなくていいから、読めよ」
「うん。ありがとう」
時々こうして声をかけるけど、葵くんはそう言って話を切り上げる。
葵くんなりに私に気を使ってくれてるんだろう。
短めの小説なら、2時間もあれば読み終えれる。
小さいころから読書を続けてきた私の、唯一の特技かもしれない。
「終わったのか?」
「うん。ありがとう。待ちくたびれたでしょ?」
「いや。千世子が読んでるの見るの、結構面白い」
「え?」
「すごく、楽しそうに読むから」
葵くんが、穏やかに笑った。