「私は、忘れたくない。その思い出も、他の事も全部。忘れたくないの」

「そこまで、思われる人幸せ者だなぁ。ねぇ、誰なの?俺の知ってる人?」

「え、あ、あの…」

「好き、なんだね」

「…うん!」




それは、胸を張って言える。
好き。





「あー、なんか、複雑な気分」

「え?」

「俺、本気で早瀬さんの事狙うつもりだったのにさ」

「え、えと…」

「でも、可能性がないわけじゃないもんね、俺、がんばろー」

「あ、あの…」




恐るべし、一ノ瀬くん。
スーパーポジティブというか、なんとも前向きな人。
でも、少しだけ、救われたかもしれない。





「一ノ瀬くんなら、素敵な彼女できそうだよ」

「ちょっと、軽く拒否ってる?」

「え、いや、そういう意味じゃなくて…」





私は気づかなかった。
この場所に、一ノ瀬くんと私以外の人がいたなんて。
そして、私たちのこの会話を聞いていたなんて…。