ない…。
ない、ないないない!


どうしよう…。



大事な物なのに。
どこでなくしちゃったんだろう…。



昨日までは絶対にあったはず。
財布の中に、ちゃんと入れてあったの。



ああ、こんな事なら早くに手帳に入れ替えて保管しておくんだった。
財布を開けた時にちらっと見えるのが嬉しくて、ついつい…。




なんて、考えている場合じゃない。
探さなくちゃ。



それに、あんなの見つかったら、きっとみんなのいい噂のタネだ。
だって、あの裏には……。





「葵くんの名前が…」





映画の半券。
初めて葵くんとデートをして、見た映画の半券。
女々しくずっととっていて、その裏には“葵くんと初デート記念”なんて、恥ずかしいコメント付。


初デート…。
あれが、最初で最後になってしまったんだけどね。