だから、他の人とキスをすることだって。
私に、冷たく突き放すような声で言えるんだ。


期待してたわけじゃない。
最初からわかってた。

騙された、なんて思ってない。



葵くんが、そういう人だってわかっててこうなることを選んだのは私。



私なんだ…。




いつの間にか溢れていた涙。
私は慌てて拭おうとする。

その時、彼女と別れたのか葵くんが階段を下りてきていたことに私は気づけなかった。




「あ……」




私を見た葵くんが、少しだけ表情を変えた。
でも、すぐに元通り冷たい表情に戻る。



「なに、見てたの?」

「…ごめんなさい…」

「なんでひよこが謝るわけ?なにも言わないわけ?」

「……言えない…」




私がそういうと、葵くんは「あっそ」と言って私の横を通り抜けて階段を下りて行った。