私は突然藤堂くんに赤くなっていない手首を持たれ引っ張られるようにして食堂を出た。
私はされるがまま、なにを超えかけたらいいのかもわからなくて、怒られるのは怖いし、なすがまま。

藤堂くんは食堂の外にある水道の前で止まり、グイッと私の手を水道の下にやると蛇口をひねる。
勢いよく流れだす水にさらされ、少し痛みが和らぐ。





「あ…」

「ったく、こんなシミよりこっちだろうが」

「ご、ごめんなさい…」

「別に怒ってねぇ」





いや、確実に怒ってます。
それは、怒ってるっていうんです。


私は掴まれたままの手首をじっと見つめ、この状況をどうしたらいいのかと悩んだ。
これまでも、これから先も交わるはずのなかった私と藤堂くん。

それなのに……。





「あ、あの…もう、大丈夫です…」





この状況から逃げ出したくてそう告げる。
痛みがなくなったわけではないけれど、この状況から逃げ出せるのなら。





「…そうだな」

「あ、はい」




よかった。




「とりあえず、保健室行くぞ」




…逃げ出せは、しないようです。