体育の授業が終わり、着替える前に水道で顔を洗っていると、
「遠野さん」
千秋くんが、私にタオルを差し出した。
「え?あ、ありがとう」
千秋くんの行動にびっくりしつつ、フッと笑みがこぼれた。
「なんか逆転してるよね。立場」
「何が?」
「普通は、女子が男子にタオル渡すものだよね?」
「そうかな?そんなベタなことしたいの?」
「ベタって何?」
「少女漫画の胸キュンシーン」
「あー。壁ドンとか?」
「そう、それ」
「あれは、好きじゃない人にされても嬉しくないかな?」
「え?ほんと?女子はみんな好きなのかなぁって思ってた!」
「ないよー。ないない」
千秋くんとこんなに普通に話したのは始めてなような気がする。

