「なに?遠野さん?」


何度か呼び掛けた時、突然大きな声を出して、椎名くんが振り返った。


そしてその顔は、なんだか不機嫌。



おいおい…。



思わず顔が引きつる私。



「おい!椎名!」


先生に怒った声で呼ばれて、椎名くんはやっと教壇の方を向いた。



「お前、問いの三をここに解け」


先生が、黒板を指差す。





「はぁ…」


そう呟いた椎名くんは、黒板から教科書に目を移して、ペラペラとページをめくっている。



授業を聞いていなかったら、どこを解くのか分かってないのだ。




「34ページの問いの三」



私の助け舟に、椎名くんは軽くお辞儀をして、教科書を手に立ち上がり、黒板前へと移動した。




すると、チョークを持ったかと思うと教科書をチラっと見て、黒板にすらすらと数式を書いて解き始めた。


あっと言う間に答えを導き出した椎名くんに、先生は唖然としている。



「出来ました」



椎名くんは、そう言って無表情のまま、席に着いた。



「せ、正解だ」



先生の悔しがる顔がそこにはあったが、椎名くんはそんなことどうでも良いと言わんばかりに、再び窓の外をじっと見ていた。