『ななちゃん、今日で24歳だろ?』

唇を離して、階段の柵にもたれると、渋谷くんは急にそう言ってうつむいた。


『あらためて言わないでよ…』


苦笑しながら、そう言うと、渋谷くんは少し笑ったあと、黙りこんだ。

チラッと横目で見ると、渋谷くんは足元の地面を見ていた。

夏の夜の風がときおり私の髪を揺らした
遠くで、パトカーのサイレンが聞こえる。


『ななちゃんは…何歳までに結婚したいとかあるの?』

『…けっこん?』

『うん』

なんの脈略もなくされた質問に驚いて、渋谷くんを見ると、真剣な顔で私を見つめていた。

『…そうだなぁ』

私は上を見上げて答えを探す。

『あんまり考えたことないなぁ。まぁ…30の誕生日までに出来たらいいかな』

『サンジュウ…』


渋谷くんは神妙な顔で復唱した。


サンジュウ


別にこれといった理由はないのだけど。
聞かれたらそう答えた。
ただ、それだけの数字だ。



渋谷くんは、サンジュウ、サンジュウとしばらくぶつぶつと呟いた。
それから、19、20、21、22…と指を折って数え始めた。


何をしているんだろう。

その顔が、あまりにも真剣だったから、私は声をかけず渋谷くんを見ていた。


『よし』


渋谷くんは、折っていた指をいったん開くと、またギュッと握って、私の方を向いた。

それから、

『ななちゃん、俺医大行くわ』

そう言うと、にっこり笑った。