『もうすぐ誕生日なんだって?』

シーツの間から声をかけた。

『なんで知ってんの?』

シーツの向こうで、渋谷くんは、不思議そうな声を出す。

『松原さんから…聞いた』

私の言葉に、あぁ、あいつか、と面倒臭そうに言う。


『…おめでとう。少し早いけど』

シーツから、少し顔を出して、渋谷くんの顔を見た。

『7日は日曜日だから…先に言っておくね』

『誕生日に…聞きたいんだけど』

『無理だよ。学校休みだもん』

『…分かってる』


渋谷くんが、シーツの間に滑り込んできた。


『でも、当日に聞きたいんだよ』

『無理だよ』

もう一度言った。
言い聞かせるように。

『…学校の外では会えない?ななちゃんが先生で俺が生徒だから?』

『そうだよ』

渋谷くんは、その背徳感に溺れているんでしょう?

『じゃあ、こうしよう。誕生日の夜…ええと…8時。偶然、ななちゃんちの前でバッタリ会うっていうのは?』

『バッタリ?』

『そう。偶然だなぁ…みたいな』

『どんな偶然よ?』

『いいから。偶然会うんだよ。俺たちは』


分かった?
そう言いながら、自然に抱き締められた。

偶然…。
そんな偶然があるはずがない。

いや…
あるかもしれない。

…うん。
きっとある。



『分かった』


胸の中で答えた。


それから、白く眩しいシーツの海の中で、キスをした。
抱き締められた時と同じように、自然に。
一度だけ。