次の日も、渋谷くんはいつも通り来た。

六時間目の途中に来た渋谷くんは、ベッドに潜り込むと、
『なんかふかふかする』
と嬉しそうに言った。


『久々に晴れたから、布団干したの』

『そっか。気持ちいい。ありがと』

別に渋谷くんのために干したわけじゃないのに。
私は苦笑する。



『ななちゃんせんせー、元気?』

放課後になると、遠藤くんと濱田くんが遊びに来た。
渋谷くんは寝ているのか、ベッドからまだ出てこない。
いつもなら、寝ている人がいたら、出てもらうのだけど、渋谷くんだからいいだろう。
サボりだし。



『元気だよ』

『ななちゃん先生、聞いてよー。こいつ、受験生のくせに、彼女作りやがった』

遠藤くんは、濱田くんを指差して、すねた顔をする。

『別にいいだろうが』

『しかも、付き合って三日でキスしたんだって。手ぇ早くない?』

『お前まじでうぜー、黙れ』

濱田くんは、笑顔で遠藤くんを殴る真似をした。

キス、という言葉に思わずパッと二人の顔を見てしまう。

『ん?ななちゃん先生、今、なんか反応しなかった?』

濱田くんと掴みあっていた、遠藤くんがこっちを向いて、ニヤリと笑った。

『してないよ』

『ふぅん?気のせいかなぁ』

そう言いながら、遠藤くんは、デスクの上の、マーライオンのボールペンに気づいて、

『あ、これ二年生のお土産?』

それを、ちょん、と人差し指でつついた。

話題が変わって、私はこっそり胸を撫で下ろす。

『そうだよ。かわいいでしょ?』

『シンガポール良かったよなぁ。町にゴミがひとっつも落ちてないの』

『へぇ?そうなんだ』

『うん。ななちゃん先生さ、最近キスしたのいつ?』


油断させておいて、この質問!
遠藤くん、何者!?

不意打ちを食らって、思わず言葉をなくしてしまった。
え、の形のまま、顔が固まる。

遠藤くんと濱田くんは、笑いをこらえてこっちを見ている。