二人だけになった保健室はしん、としている。
渋谷くんは、明らかに不機嫌で、腕組みをしながら私を見ている。
『もう…大丈夫なの?』
そう聞くと、チッと小さく舌打ちをしてベッドに向かった。
『え?ち、ちょっと…』
無視はないでしょ。
一応…心配してたんですけど!?
『ねぇ…大丈夫なの?』
渋谷くんの後ろについてカーテンの隙間から中に入ると、渋谷くんは背中を向けたまま、何も答えない。
『…なに怒ってるの?』
『怒ってない』
『うそ、じゃあこっち向いて』
はぁ、と深く息を吐いて、渋谷くんは私に向き合った。
『…もう大丈夫なの?熱は』
『…うん』
『そっか。よかった。』
ほっとして、思わず頬が緩んだ。
『桜井、なんでいたの?』
思わぬ質問に瞬きを繰り返す。
『なんでいたのって…怪我したっていうから、消毒してただけ』
『でも、ななちゃんの手、触ってた』
『あぁ、手の大きさ比べしてたから』
『なんだよ、それ』
『だから、手の大きさを比べてたの。私と桜井先生の』
こうやって…
渋谷くんの手首をつかんで、二人の手のひらを合わせた。
『うわ、渋谷くんも手大きいね』
笑って、そう言ったら、合わせた手を少しずらして、からませるように手をギュッと握られた。
『し…渋谷くん?』
雨の音にまじって、音楽室から、かすかなピアノの音が聞こてくる。


