本当に渋谷くんはよくわからない。

からかうにも程がある。
ガス抜きにしても、ちょっとやりすきだ。
よほどストレスがたまっているのか。
保健室でさぼってはいても、一応受験生だし。

受験生…。

そうだ。
進路のこと、聞かなきゃだめなんだ。

そのうちそのうち、と思っているうちに、桜井先生に頼まれてから二週間以上が過ぎていた。

今、聞いてみようかな。
起きてるかな。

そっとカーテンの隙間からベッドをのぞくと、窓の方をむいて横になる渋谷くんの後ろ姿が見えた。

もし…寝てたら、また今度にしよう。

そっと窓際に近づいて、顔をのぞきこむ。

渋谷くんは寝ていた。

閉じたまぶた。
長い睫毛。
鼻筋の通った形のいい鼻。
軽く開いた薄い唇。
風が茶色の髪を揺らす。

きれい。
女の子みたい。

こんなに近くで見ているのに気付かないなんて、渋谷くんの方がよっぽど無防備だ。

その寝顔を見ていると、母性本能にも似た気持ちで心が暖かくなる。

ベッドのそばにしゃがみ、頬杖をついて眺めていると、そのすべすべした頬に触れてみたくなった。

そっと、いつかの渋谷くんみたいに、指先で頬に触れる。
柔らかいものに触れるようにそっと。

『…んー…』

渋谷くんが小さく動く。

慌てて手を引っ込めると、渋谷くんがうっすら目を開けた。

『…ごめん』

いろんな意味でとりあえず謝ると、渋谷くんはゆっくりまばたきをする。
まだ眠たそう。

寝顔を見てたなんて、恥ずかしすぎる。

立ち上がろうと、ベッドに手をついたら、手首をつかまれた。

『なに?』

渋谷くんが囁くように聞く。

『…ぐ、具合はどうかな、って…』

寝顔がきれいで見惚れていました。
なんて言えない。

『具合?』

くすくすと笑いながら、聞き返された。

『心配なんてしてないでしょ』

『そ、そんなことないよ』

『ほんとに?』

片方の口角だけ上げて、ニヤリと笑う。

『ほんとに』

力強く頷きながら言うと、

『へぇ、心配してくれてたんだ』

と嬉しそうに言った。