コンコンッ
『夏々子せんせっ』
『おはよう』
『無事に進級しました。今年もよろしくね』
『こちらこそ、よろしく。新しいクラスはどう?』
『まぁまぁかな。あ、新入生たちが、夏々子先生って何歳かなぁ、って噂してたよ』
『うわ、やだ。聞かれたらなんて答えよう』
『30歳って知ったら、みんなびっくりするね』
『ちょっと…私また29歳なんですけど…。30歳まで、あと3ヶ月もあります』
『あ、そうか。失礼しました』
女子生徒はおかしそうに笑う。
『ほら、チャイムなるよ。教室に戻って』
『はぁい』
女子生徒が元気よく出ていくと、私は仕事を再開する。
『健康診断はよし、耳鼻科検診よし、歯科検診もよし、と』
パラリ、と資料が風でめくれる。
窓を閉めようと立ち上がったとき、
ドアが開いた。
ノックもなく。
振り向いた私の手から、資料がするりと落ちる。
春の強い風が吹く。
資料が舞う。
私は走る。
手を広げるあの人に向かって。
胸元のハートが、
しゃらり
揺れた。
end