『最後の最後まで頑張ったんだけど、やっぱり、私に碧は無理みたい。ななちゃん先生にしか扱えない』

――あいつを操れるのは平井先生だけですね――

桜井先生の言葉が頭をかすめた。

『卒業祝いに気持ちよく振ってやった。最後くらい、いい女だと思われたいもん。なんだかんだ楽しかった。好きになってよかった、と思ってる。だから…もうななちゃん先生にあげる』


松原さんはそう言って笑う。
本当にきれいな子だと思う。


『やだ!?なんでななちゃん先生、泣いてるの?』

『…え?あ、ほんとだ。えへへ…』

涙を拭いて私は笑う。


『ななちゃん先生、教頭に…ちくったこと…怒ってる?』

『どうして?どうして私が怒るの?』

意味がわからないよ、松原さん。
松原さんは、道徳も倫理も、どっかに飛んでいっちゃうほど、渋谷くんが好きだったんだよね。
私と、一緒だね…。




『あーぁ、やっぱり、ななちゃん先生にはかなわない。ななちゃん先生、大好きよ。ほんと、碧を大事にしてね』



松原さんはそう言って、私に抱きついてきた。


『…渋谷くんは…私のこともう好きじゃないと思うよ…』


渋谷くんなんか、だいっきらい、とか言ったんだもん、私。


『…なに言ってるの?先生相手になんだけど…ほんとバカね』


バ…
バカね…?


『今、バカって言ったわね!』

『きゃあ!ごめんなさーい』


松原さんはけらけらと笑いながら、私から離れると、ドアのところで振り返った。


『ななちゃん先生、また遊びにきてもいい?』

『もちろん。いつでも遊びに来てね』



私たちは微笑みあう。

『じゃあ、またね!!らびゅ』

そう言って、私に投げキスをよこした松原さんは、女の私が惚れてしまいそうになるくらい、きれいだった。