たったったったった…


後ろから音がする。

誰かが走ってる。
私に向かって、走ってる。


もしかしたら、痴漢かもしれない。
強姦魔かもしれない。
ひったくりの線も捨てきれない。



だけど、私はそのまま歩いた。
もうどうでもいい。



『…ひっ』

さすがに、後ろから腕を捕まれると小さい悲鳴がこぼれた。
肩がビクッと上がる。

やっぱ、どうでもよくない。



『っはぁ、っはぁ、っはぁ…』


カチコチの体でおそるおそる振り返った私は叫んだ。

『…っな…なんで!!』


腕をつかんだのは、渋谷くんだった。

私の腕をつかんだまま、もう片方の手を膝に置き、肩で息をしている。



『っはぁ、っはぁ…』



『…ど、どうして?』



渋谷くんは、顔を上げた。


『…っはぁ、偶然だな…』




『…はぁ?なに言ってるの?』




渋谷くんはまだ苦しそうな呼吸を繰り返している。


私はそれを信じられない思いで見つめる。

なんで?
なんで?
なんでここにいるの?
なんで、そんなに息を切らして走ってきたの?


松原さんと…いるんじゃなかったの?

もしかして…
ネックレス返せ、とか言いに来た…?



『…返さないよ』


『え?何を?』

渋谷くんが眉にしわを寄せる。


『…ネックレス』

『…あぁ。そうじゃなくて…』

『じゃあなに?』