『それではこれで終業式を終わります』

教頭の声を合図に、ぞろぞろと生徒たちが体育館から出ていく。

パイプ椅子から立ち上がると、私も重い体を引きずるように生徒たちの後ろについていく。


『クリスマス』

生徒たちの会話からその言葉が聞こえるたびに、胸がバカみたいにズキン、とした。


――クリスマスに泊まりにこないか、って誘われてるんだ――


こめかみを押して、目を閉じながら歩いていたら、目の前の生徒にドンッと当たってしまった。

『あっ、ごめんね』

反射的にそう言って目を開けたら、そこにいたのは、よりによって渋谷くんだった。


髪が…短くなって、しかも黒くなっていた。

そっか。
桜井先生、言ってたな。

黒い髪…似合うじゃない。



あわてて目をそらした。

体育館の出口は全校生徒が押し合いへし合い、混雑していて、なかなか進まない。

涙がでそうになるのを、まばたきでごまかしながら、ひたすら足元を見ていた。

『…っ!?』


その時、人混みの中で、急に手を握られた。

そのひんやりとした長い指…大きな手のひら…。

間違いない…。

渋谷くんだった。

前に立っている渋谷くんが、手を後ろに回して私の手を握っていた。


回りにはたくさんの生徒たちがいるのに、誰も気づかない。

どうして…
どうしてこんなことをするのよ…


渋谷くんのそういうところが…
そういうところが嫌いなのよ。
どうして、桜井先生みたいに一定に保ってくれないの?
どうして、私をかきまわすの?


きっと、こうやって私の気持ちを弄んで反応を見て楽しんでるんだ。

夏休みで終わりだって言ったんだから、この遊びはもう終わりにしてほしい。
もう…クリスマスなんだから。