『ななちゃん、俺、夏休みすげー勉強頑張った』

渋谷くんは、私から少し離れて、自分の耳たぶをさわりながら、少し得意気に言う。
その言い方がかわいくて、思わず笑って、

『えらいね』

と、誉めてあげた。


『ななちゃん、ご褒美ちょーだい』

『ご褒美?』

なにか欲しいものでもあるのかな。

渋谷くんは、いたずらっぽく笑っている。

『ん。夏休みの最後の日、ななちゃんとデートしたい』

『最後の日?』



デスクの卓上カレンダーを見ると、8月31日は土曜日だった。

『二人でどっか行こうよ。夏の思い出作り』

渋谷くんは、自分の後頭部をポリポリとかきながら、私をチラリと見た。



夏の思い出作り



私はしばらく考えた。
ううん、違う。


考えたふりをした。


『いいよ』



私の答えを聞いて、渋谷くんは

『え…』

と言うと、ピタリと動きを止めて私の目をじっと見た。


『…何時にどこ?』


私は目をそらし、わざとぶっきらぼうに聞く。


『…駅の改札に、10時』

『わかりました』


そう答えて、パソコンに向かった。

これだけは見られたくない。

このにやけた顔だけは。