セピア






少し、やりすぎただろうか。




自分のプレゼンを早めることになってしまったし、何よりもまだ後に人がいたのにこの場で決まってしまった。







数分ほど前にお開きになった会議室で、私は小さくため息をつく。







「 プレゼンが通ったのにため息かい? 」






もう誰もいないと思ったのに、顔をあげれば見慣れない男性。





―― ああ、最近支社から配属された課長さんね。






そう、頭の中でわかったのはいいんだけど。




申し訳ないくらい、彼の名前が思い出せない。






表情からわかってしまったのか、彼が噴き出す。






「 猪口秋です、よろしくね松村さん。 」





そう言って優しく笑うイグチさんを見て、女社員の黄色い声を思い出した。






「 失礼しました、イグチ課長。 」




女に人気のある社員は、ちょっと厄介だ。何もしていないのに色目を使ってるとか、なんとかって女社員がうるさいから。




ニコッと微笑んで、その場を後にしようとする私の腕を彼が掴む。