「…七海は、何になりたい?」


ケーキは半分以上が私の胃袋に納まり、二人してシートに寝転がって、贅沢な星空映画を鑑賞している途中だった。


「将来の夢ってこと?」


問い返すと、視界の隅の彼は微笑んだように見えた。
それを肯定ととった私は、暫し考え込んだ後、口を開いた。


「私は保育士になりたいと思ってる。子供と触れ合うことが好きだし、何より、聞いてもらいたいの……私の心の中」

「心の、中?」

「今はまだ、うまく言葉にすることが出来ない。100パーセント重なるものなんてきっとないんだろうけど、それでもいつか…私が見つけたかけがえのない言葉で、想いを伝えられたらいいなって、思ってるよ」


彼の隣は、心地が良い。
その存在だけで、願いが叶えられそうな勇気をこの身に受ける。
温かな感情だ。


「うん…、七海らしくてすごく……いい」


ゆっくりと噛み締めるように呟かれ、私は少し頬が熱くなった。
そして同じ質問を、彼に返した。


「俺は……、本当言うと、仕事は何でもいいんだ。たったひとつの願いさえ叶えられれば」

「たったひとつ…?」


気になって少しだけ、顔を横に向ける。
夜空を見上げる彼の瞳は真っ直ぐで、綺麗で、息を呑んだ。


「……この星になりたい…」


私の掌にそっと、長い五指が絡む。


「七海が大好きなこの星達みたいに、おまえをずっとずっと見守っていたい。…そういう、存在でいたい…」



…再び、空を見上げた。
握り返した手から、体温が流れ込んでくる。
こんな時に涙など要らないのに、いっぱいになって、静かに零れた。

瞬く星達の音を聴きながら、私達はずっと見上げていた。
ずっと、隣に居るのだと、確かに感じていた。