お前のために歌うから。


「あ…んっ」

しんとした部屋に、あたしの甘い声が響き渡る。

完全に瞬に酔っていた。



その瞬間だった。


突然がらりと開いたドアに、あたし達は弾けるように離れる。

「心菜さーん、大丈夫ですかぁ?」


…お前かよ!


と、つい心の中で突っ込みを入れてしまったほど、ナイスタイミングでやって来たのは、里緒ちゃんだった。


「大丈夫だよ、ゆっくり休んどけよ。」

何事もなかったように平然と立ち上がり、あたしの頭を ぽん、と優しく撫でると部屋を出て行った。


「…もしかして、いい感じでした?」

里緒ちゃんは、そんな風に告げると、私のベッドの隣に座る。


「へ?そんなんじゃないよ!」

ぶんぶんと急いで首を横に振る。

そうだ、里緒ちゃんにバレたらややこしいんだ。



「じゃあ、これ何ですか?」


彼女の次の言葉にあたしの表情が固まる。


里緒ちゃんが手にしているのは、あたしと瞬がキスしている写真。


「な、なんで?」

思わず上擦ってしまう声。

嘘。

いつの間に?


「これ、週刊誌に売ったらどうなるんですかね?」

里緒ちゃんが追い討ちをかけてくる。


それって?

あたしは、じっと俯いて考える。


この写真が週刊誌に掲載されること。

それは、今、大人気のAvidにとってはマイナスにしかならない。

メンバーの中には特にファンが多い、バンドのフロントマンである瞬のスキャンダルなんて…。


自分がいかに無自覚だったか思い知った。