あたしはジンと共に、深夜の人間界に降りていた。久し振りに感じる生きた人の熱気、街を彩るネオンに、何だか懐かしさを感じた。

「……全ての魂魄が寝静まる時間だっていうのに、人間は元気だねぇ」
「そりゃあ、眠らない街って言われてるし」

都心は若者で溢れ返っている。この街に、静寂が訪れることはない。あたしはそんな様子を見下ろしながら、ジンに渡されたクーラーボックスのような箱を背負い直した。

「これ、何に使うのよ」
「あー、それ? これから使うから持っててよ」

ジンはジンで、何やら釣り竿のようなものをぶら下げている。まるで、星を釣っているようだ。何を釣るのだろうか、あたしはそれを見ていた。

「………ほい来たぁ!」

ジンはグイッと釣り竿を引き上げた。
その先には、青白く光る丸いものが付いていた。まさか、火の玉ってヤツ……!?
ジンは振り向きざまに叫んだ。

「瑠璃ちゃん! それ開けて!」
「え、うん」

あたしはクーラーボックスを開けた。ジンは釣り上げた火の玉を大事そうにそこに移すと、急いで蓋を閉めた。そして、一息吐く。

「ふぅ……と、こんな感じで、成仏できずにさ迷う魂をこういう感じであの世に送り届けてるんだ。その箱はあっちの世界に直結してて、魂がすぐにあっちに行けるようになってる」
「…へぇ……」

たまに沢山一気に釣れたりするんだよー、なんて言いながら優しい眼差しであたしに微笑みかけた。それと同時に、寂しそうに目を伏せた。

「殆どが子供の魂なんだけどね。君みたいに、交通事故や何かで突然死んじゃった子とか」
「………」
「でも大丈夫。私が成仏させて、ちゃーんと輪廻の中に還してあげるから」

またニコ、と笑う。あぁ、何だってコイツはこんなに切なげに笑うんだろう。
何年も、何百年も、何万年も、こうしてあたし達人間を見下ろしてきた、世界を見てきたコイツは、一体何を思ってるんだろう。

「さぁ、ポイントを移そう。この辺はもう釣れなくなってきた」

ちょっと出来そうな釣り人のようなことを言いながら、ジンは軽やかな足取りで夜空を駆ける。あたし達の姿は、明るい街を忙しそうに歩く彼らにはきっと見えないんだろうな、なんて少し感傷に浸りながらあたしもジンの背中を追う。

「迷える魂を救うの。何だか星を釣り上げてるみたいで素敵でしょ」

アイツがあたしと同じ事を考えていたので、思わず声を出して笑ってしまった。