病院の待合室みたいな所でぼんやり座っていると、まるで本当のそれのようにアナウンスであたしの名前が呼ばれた。
あたしは腰を上げ、案内された場所に行く。
目の前にいつのまにか現れた扉を開くと、空気が変わったような、生温い風が頬を撫でた気がした。
「また若いのが来たねぇ」
低い、溜息にも似た憂いの籠もったテノールが、あたしの耳を擽った。顔を上げると、簡易な椅子に腰掛けて、さっきの受付の机よりも少し粗末で、『神様』と書かれた安っぽい紙を貼りつけている机に頬杖をついて、けだるそうにこちらを見つめる貧相な男と目が合った。
「ふーん。不良のくせに、見知らぬガキンチョ庇って死んだんだ」
目を細めて興味無さそうに、それどころかどこかバカにしたようにそいつは言う。
悪かったな、確かにあたしは学校にもろくに行かないし、夜は遊び回って親孝行のおの字もしたことが無い不良娘だよ。
でも、死因は奴が言った通り、近所のガキを庇って車に跳ねられた。魔が差したんだよ、と思う。
「わざわざ呼び出して何なの。天国にでも連れてってくれんの」
苛立ちをこめて、あたしは言う。面倒だから、早く終わらせてほしい。説教なら尚更だ。
奴はあたしの申し出に、鼻で笑って答えた。
「君みたいな親不孝でどうしようもない馬鹿娘に、極楽行きなんて言うわけ無いでしょ。ちゃんと罰を受けてもらうよ」
「はぁ!!?」
冗談じゃない、死んでからも苦しめられるなんてそんなふざけた話があるか。怒鳴り散らそうとしたあたしに、奴は話を持ち出した。
「私の面倒ごとの処理を手伝うか、地獄で責め苦を強いられるかの、二つに一つだ」
どちらに転んでも…いや、寧ろ前者は完全にこのムカツク男の雑用係だ。
ニヤリ、と口角を吊り上げた男に、あたしは言った。
「……前者で」
何があるのか分かんないけど、こっちのほうが楽しそうだし。
あたしの言葉の後、無邪気な子供みたいな笑顔を見せたアンタが、ほっとけなかったからとか、そんなんじゃないってば。


