「瑠璃!」

後ろから駆けてくる友達が、あたしの名前を呼んだ。プリーツを揺らして乱れた髪をそのままに、彼女はあたしの隣に並ぶ。

「一緒に帰ろう?」
「うん」

あたしがこの世に生まれて、18年。早いもので、高校卒業を間近に控えており、周りの友人も何かとそわそわと落ち着かない、そんな時期に差し掛かっていた。早く卒業したいような、したくないような、寂しいような、清々するような、複雑な思いがあたし達の心に渦巻いているのだろう。

この所、毎晩同じ夢を見るようになっていた。
目を開けるとそこには大きな門があって、それをくぐるときれいな肌の白い女の人があたしをどこかに案内する。

『    さんですね?』

いつも同じ質問をされるが、名前の部分が聞き取れない。ノイズが掛かって、女の人の唇の動きだけが、やけにリアルにあたしの目に映る。案内されるがままに歩いていくと、粗末な机が見えてくる。そこにだらしなく腰掛けた、恐ろしいほど血色の悪い男がこちらに振り向くところで、いつもその夢は終わる。

ばちっ、と何の前触れもなく目が覚めて、飛び起きる。毎朝それの繰り返しだった。

あたしは何かを覚えている。いや、忘れている?時々知らない誰かの記憶が映像となって頭を駆け巡る。低いテノールで、誰かの名前を、いつもあたしが聞き取れないあの名前を、優しげに呼ぶあの声は、いったい誰のものなのだろう。

びゅう、一際強い風が吹いた。

捲れるスカートを押さえながら、空に飛び上がっていく草木を見上げる。空は青いのに、何故だろう。

何だか泣いているように見えた。