死者を自分の傍において、まるで秘書か何かのように扱うなんて前代未聞だったし、ガイドの子達にもさんざん文句を言われた。寝首を掻かれたらどうするんですか、全ての生物に平等であるあなたが、こんなことをして許されるとでもお思いなのですか。
あぁ、うるさいなぁそっとしておいてよ、なんて言いながら彼女達の言い分を聞かないふりしてきた。彼女達の言葉は正しくて、どうかしていたのは私だったんだけどね。頭ではわかっているんだ、そう、頭ではね。
でも、何故なんだろう。私は人間たちによって生み出された、すごく抽象的なモノであるのに、こうして自分の存在を感じることが出来るし、自分で好きなことを考えられるんだ。そう、心があるんだ。楽しい、嬉しい、悲しい、腹立たしい、色んな気持ちに染まる、素晴らしくて、だけど時々憎くて堪らなくなる。
どうして、私に心を持たせたの。
ただ死者をあの世に送るだけ、ただ世界を見下ろすだけしか出来ないのに、それしかすることが無いのに、どうして。
どうして人間と同じように泣いて笑って怒らなきゃいけないの。
そんな相手なんか居ないのに。
日頃からそんな不満ばかり持っていたせいなのかもしれない。そんなときに、彼女が目に留まったんだ。
矢車瑠璃。子供を庇って事故に遭い、そのまま死亡。
不良ぶって色々悪さをしてきたけど、魂は綺麗だったし、悲しみに満ちていた。彼女はただ寂しかっただけなんだ。両親や友達と、仲良く暮らしていたかっただけなんだ。ただ、口下手な所為でこんなことしちゃったりしたけど。
私はその子に言ったんだ。
自分の下で働くか、地獄で苦しめられるか、どちらか一つを選べ、って。
本当はこんなことあってはいけない。だって、彼女は地獄に行くことが決まっていたんだ。親より先に死んじゃうのは、親不孝で悪いことだから。
それでも私は、寂しさに勝てなかった。
結局彼女を引き止めて、話相手になってもらって、他愛無いやりとりを繰り返して。
嬉しかった。
楽しかった。
心を持ってよかった、って思った。
けど。
彼女が輪廻に帰ってから、やっぱり悲しくなった。寂しくなった。
やっぱり心なんて要らない、って思った。
ねぇ、今からわがままを言うよ。
もう一度、君に逢いたい
……って思っても良いかな?


