──どうやらあたしは死んだらしい。


鼓膜を直接揺らすようなクラクションが鳴り響いて、焦ってハンドルを切ってブレーキをかけようとする運転手の顔が見えるくらいに接近した車体が、言葉では言い表わせない衝撃をあたしに与えたまでは、何と無く記憶があるんだけど、今のあたしには、何の感覚も残されていなかった。

ぼんやりと目を覚ますと、目の前には紅くこってりと塗られた鳥居のような大きな門があって、霧に包まれたこれまた大きな建物が建っている。

「……何だよ、ここ」

あの世って本当にあったんだ、とか呑気に思いながら、たいして疲れてもいないはずなのにどことなく重い尻を浮かせた。
吸い寄せられるように門をくぐり、霧を抜けて建物に入る。

すると、中で『受付』と書かれた安っぽい紙を貼りつけた長机に、二人程の女性が居て、愛想の良い笑みを浮かべながら、「こんにちは」等と挨拶をしてきた。

「午前8時15分に交通事故で死亡した、矢車瑠璃(やぐるま るり)さんですね。待合室までご案内いたします、どうぞこちらへ」
「あ、はぁ?」

話がよく分からないが、女性はあたしの手を引いて薄暗い廊下を歩く。何処に案内されるかは知らないが、あの世も随分と事務的なんだなぁとか、場違いなことを思っていた。

パジャマみたいな貧乏クサイ薄手の服には、『58』と番号が書かれている。整理券みたいだ。

「判定が出るまで、しばらくお待ち下さいね」
「判定?」

意味のわかないことを言い残して去っていこうとする女性に、あたしは堪らず尋ねたが、彼女は振り向くことすらせずに仕事に戻っていく。何だよあの女、ムカツクな。