むとうさん

おばさんは大きなアーモンドアイを見開いて驚いた。

「もしかして、武藤伊織のこと…?伊織くんと、慶子ちゃん知り合いなの?」

「あの、私むとうさんのフルネームは知らないのですけど…むとうって名乗っている人からこのアボガドにソースかけるの教えてもらったんです。」

こう、口にすると私はいかにむとうさんのことを知っているようで知らないのだ。本名のフルネームは確かに今更聞き合うことはないのかもしれないけど。

それにしても、武藤伊織があのむとうさんだったら。私は緊張と期待が入り混じってドキドキしている。

私はできるだけ、むとうさんの特徴を話した。
背格好、髪型、ウィスキー、車好きでたくさん車を持っていること、そして福富町で暴力団員をしていて、知り合ったこと。

「多分、伊織くんのことだわ。なんか、すごいわね。世間は狭いというけど。」

「その、むとうさん…伊織くんとはどういう知り合いなんですか?」

「それがね…うちの人が伊織くんの家に融資していたの。」
「もともと知り合いで、お金を貸したということですか?」
「いいえ、うちが金融業をしていた時にね。…慶子ちゃん、うちの人も、伊織くんと同じなの。今更だけどね、多分浩一さんや由紀子さんからははっきり聞くことはなかったと思うんだけど。」

おばさんは静かに言った。
まぁそうだとは思っていたけど。それに関係する仕事をしているくらいだと思っていた。

母が、私が山崎家に行くことを嫌がっていた理由が分かった。