むとうさん

ぐいんと音を立ててぎりぎりのところで右にずれる。

「わぁぁ!ちょっと!」

むとうさんはひゃはははと楽しそうに高笑いした。

この人危ない。高速にのってから始終にやにやしてる。

このままどこかに突っ込んで2人して死んでしまったら…

向こう見ずだが失恋の精算に付き合う気のいいヤクザ者と、いつまでも踏ん切りのつかない生真面目な女エンジニアの交通事故。密かな心中。

この人といると、それもいいかなって思ってしまう危険さがある。

白のクラウンが前に出てきた。

「まじですか。」
「上等じゃん。」

うちの会社のSUVはずんずんと距離を詰め続ける。

心の中で負けるなと叫んでしまう。

しばくするとクラウンは降参したのか左に消えていった。

「えへへ。」
「俺とこの車で負けるわけねぇだろ。」

勝ち誇った顔をしたむとうさんを見て、一緒に倒したみたいで嬉しくなる。