むとうさん

ホール用の正方形のケーキの箱。2膳の箸。大きく2人用と書かれた惣菜パック。髪をセットして、家の近所なのにおめかしして泣いてる女。

賢いむとうさんは察しただろう。
恥ずかしい。真っ裸で全身に光を当てられたように恥ずかしい。

むとうさんは屈んでケーキの箱の蓋を開けて中身を確認した。そんなことしないでよ。ネームプレートがついたファウンダリーのホールケーキ。どう見ても誕生日用で…

むとうさんはシールを貼り戻し、綺麗に箱を袋に戻す。

顔をこわばらせて下を向いている私にむとうさんは話しかける。

「捨てるのかよ。これ。」

「だって…もう要らないんです、これ。そもそも落としてしまったので自分でも食べられませんし、落とさなくても食べたくないです…。」

「誰かと一緒に食べるために、あんたが用意したんだろ?」

「でも、もういいんです。」

「良くねぇよ。そんなもの、捨てるな。」

顔を上げるとむとうさんはすごく悲しい顔をしていた。こんな顔のむとうさんは初めて見た。