むとうさん

動揺していたのか。咄嗟に手から袋を離してしまったのか。普段じゃありえない行動を取るものだ。

袋は派手に落下して、ケーキの箱は角からぐしゃっといった。

私は落ちたそれを見ていた。

「やだ、せっかく買ったのに。綺麗に作られたケーキ台無しにしちゃって…片付けなきゃ」

声が震えているのが分かる。屈んで惣菜パックを袋に戻す。

「高かったのに。勿体ないな、もう食べられないけど。でも一人じゃこんなに食べられなかったし、買ったものだしまだ良かったのかな、はは。」

取り乱しながら言葉がいっぱい出てくる。

震える声とともに涙がじわっと溢れた。

泣いてしまった。大人の女は泣かない、なんて曲が昔あったかもしれない。

大人の女が人前で泣くのは美しくないのだ。意地汚い戦略に見えるかもしれない。

でも私は泣いてしまった。声を堪えて。