むとうさん

あぁ。こんな時に。向こう側から黒塗りのベンツがやってきた。

「おい、どうしたんだよ。」

私が暗い顔でふらふら歩いていたからか、むとうさんは何かを察して路上駐車した車から降りてきた。

深い青いストライプのスーツを着ている。

「こんにちは。むとうさん、お仕事中ですか?」
「そうだけど。あんたは?」
「私は散歩です。」
「…」

言葉が適当になっている。無理して笑っているのが自分でもよくわかった。

私はポケットからスマホを取り出そうとすると、手からスマホがころんと落ちた。

画面が割れるー焦って拾おうとする。

携帯は割れていなかった。

だけど、袋の中身がこぼれ落ちた。