むとうさん

「私、この前友達に連れられてアロママッサージに行ってきたんですけどね、エステティシャンの方の手がすごく気持ちよくて。というか、大人になったら人と触れ合うことってまずないなと思ったんです。子どもの頃は家族とか、友達とも手を繋いだり。それがこんなにあったかいことなんだなって、しみじみ思っちゃいました。」

なんか自分で言っておいて、客観的に見ると、ただのセックスに飢えてる女のように見える。むとうさんはどう思うかな…。

「そうかもな。」

むとうさんはそんな俗っぽい考えで気を揉んでいたのが恥ずかしくなるほど真剣に受け止めていた。

「俺はあんま覚えてすらないけどな。そういう感じ。」
ははっと海を見ながら笑った。

「覚えてるのなんてよ、人殴った時の鮮血のあたたかさだよ!」
笑いながらも生気のない眼をこちらにむけた。少しゾクッとするほど。

「そんなことないですよ。」
「…俺は諦めてるんだよ、色んなこと。」