むとうさん

「以前、2人でケーキを食べましたよね。むとうさんは分かっているかと思いますが…贈り先が例の既婚者の元カレだったんです。
でもあの湘南平の日からかな…思考の渦から抜け出して、この前自分の中で決着をつけることができたんです。相手がどうだから、じゃなくて。」

むとうさんは相変わらず黙って、初めて会った頃のような鋭い眼光を向け続けている。

それを浴びると私は何かを審査されているような緊張感を感じる。武藤さんには全てお見通しなのかもしれない。

「そんな風になれたのも、武藤さんのおかげなんです。私武藤さんに助けてもらってばかりで…私実は、山崎栄基の姪なんです。」

おじさんの名前が出ると、眉毛が少し動いた。しかし、武藤さんは相変わらず黙ってじっと私を見定めるように見ている。

自信を持って。私は言葉を続ける。

「おばさんから武藤さんのこと聞いて、私、今まで武藤さんのことさりげなく聞いていたこととか、もっと深く知りたくなったんです。なんで色んなことを諦めてるなんて言ったのか…
それに、私助けてもらってばかりだから。今度は武藤さんを助けたいとか。」

心無しか表情が柔らかくなったように見える。それも気のせいなのか。