むとうさん

いやいやそうじゃなくて。

このまま世間話なんかして、武藤さんに仕事の電話がかかってきて、俺帰るわってなって。

武藤さんは一応途中まで送ってくれて、前みたいに半開きの口の端だけ上げて、おうまたな、なんて言って別れて。

やっと会ったはいいが、川崎の事務所に行くのはちょっとね、とか言って、また福富町にて1人でもんもんと思いを募らせている私の未来が容易に想像できた。

気張ったり、ほんわり甘くなったりを上下する。

やはりこの小会議は非常に不安定な海の上だった。

波に流されてはいけない。波を読んで、自分で舵を切らなければならない。漁夫の妻のように、私はもう1人で待てない。

私はリラックスした昼下がりの沈黙を破った。

「あの、私、今日会いに来たのは話したいことがあって。」

一瞬空気が変わる。

武藤さんはタバコを手に持ったままじっと私を見つめた。

さっきの黒髪のウェイトレスが楚々としてコーヒーと伝票を置いていった。

私は言葉を続ける。