むとうさん

あぁ、なんであんな甘えたようなことを言って泣いてしまったんだろう。
これから行われる二人の小さな会議の結果によっては、ただの恥ずかしい過去になるのに。

でも。心の中でその先々の心配より、感情をストレートに出すことの心地よさ、そして何よりまたこの男の向かいに座れたことの喜びが勝っている。

日曜日の午後の個人経営の喫茶店は、少し古めかしいんだけど、静かで陽の光が暖かい。

武藤さんは上着から白に星模様の箱を取り出し、その中身を咥えて火をつけた。

「ブレンド一つ。あんたは?」
マイペースも相変わらずで。

「じゃぁ、私も同じもので。」

素材は普遍的日本美人だけど化粧っ気のないお姉さん、という表現がぴったりくるウェイトレスさんが慣れたように注文をキッチンへ伝えに行った。

男は吸いかけのタバコを切子細工風の分厚いガラスの灰皿からつまんだ。

予想していたのと違う。私はここまでくるのにあんなに強張っていたのに。武藤さんは全く変わらずリラックスしていて、福富町にいたころと何も変わらない。

私は…今はすっかり武藤さんとこうして前と変わらない雰囲気で2人でいることに…甘い気持ちになってしまっている。