予定通りに目的地前へ、車は止まる。
なだれ込む様に、アスファルトに足を下ろす。
正直、今の私に笑顔を振り撒いて仕事をする余裕なんて無かった。
でも、歩みは自然に、1歩1歩確実に、エントランスに向けられていた。
「カナ」
背後で呼び止められる。
「また、連絡するから。だから…」
切羽詰まった、ユウキの声。
「──だから、カナもメールとか、返してね」
念を押し、ユウキは渋滞の波へ戻っていった。
時刻は就業前ギリギリであった。
そんな事より、急がないと遅刻しちゃうよ。
そんな気の利いた言葉、出てこなかった。
手を振り、ユウキをただ見送った。
