なぜ──喜びの後に、絶望が在るのですか?
ユウキが開けている窓からは新しい季節の、少しだけ甘く苦しく締め付ける、穏やかな風が入って来た。
もうどこにも、夏の痕は無かった。
あの出会いも、煙草の匂いも、花火も、波音も、ナオヤの横顔も、陽炎の様に消えてしまえばいいと思った。
全てが夏の悪戯で、夏に全てを置き去りにしたかった。
ケータイのボタン1回。
押してしまえば、ナオヤとの繋がりは消える。
消える筈なのに。
「…なんで」
声が震えている。
「なんで、消せないの?」
私の呻き声は、対向車の甲高いクランクションで掻き消された。
