海から国道までの道のりは比較的空いていた。

茶色いミニチュア・ダックスフンドを連れて、散歩をしている初老の女性とすれちがった。

バックミラーで、流れていく風景を見る。

「可愛いね」

うん、とだけ呟き、ナオヤは確認できないほど小さく遠のいた散歩姿を、いつまでも鏡ごしに見ていた。



なんとなく、心が和らいでいった。



ナオヤと居ると、目に映る全ての風景が新鮮で、全てを愛しいと思った。



今の自分が、自分でない気がする。

いや、今までの自分が違っていて、これが本当の自分なんだなと、錯覚してしまう。



それぐらい、ナオヤと共にする時間は濃厚で、でも私のどこかの何かを、確実に変化させていった。