「……マスカラ、服に付いちゃうよ…」

それが、私の精一杯の返事。

「いいよ。そんな事。…それより私はカナ、あんたの事が自分の事以上に辛くて、寂しいの。あんたが自分の安売りしていると、私まで……」

急に、カオリが言葉に詰まらせた。


シン、と、夜の音が響いた。



「…私まで、心が引き裂かれてるように、痛いんだよ。…なんでかな?体も心も、痛い事されてるのは、あんただってのに、なんで私の心まで……痛いのかなぁ…」


ぎゅっと、背中の手に力がこもった。

でも、痛いとは思わなかった。



「ごめんね、カナ。あんたがこうなる前に、私には、止める義務があったのに……」
「──なんで、」
「…ん?」
「なんで、そこまで、……考えて、くれるの?」

私の中の単語が、ようやく言葉になった。


ゆっくりと流れる狂詞曲のように、


「だって、あんたは──」