「あんた、泣きたかったんでしょ?」

いつもより、トーンを落としてカオリが言葉を放つ。

「あんたは、この世の中で、誰よりも不幸だなんて思ってなぁい?」

静かに、

「でもね、一度回りをみてごらん?」

静かに、

「自分より不幸な人間、いっぱい居ない?」

旋律のように、

「…なんて事はいいたくないけどね」

突然、抑揚をつけて、

「あんたが、今一番不幸だなって、自分が思うなら、思えばいいよ。でもね、あんたを必要としてない人間なんて、この世に居ないんだよ」

また静かに響く。

「例え、不幸を背負ってる人間でさえ、片足のない人の支えにはなる。例え、自分を要らないと主張している人間でさえ、見えない人の目になれる。話せない人の言葉になれる」


──極端な話だけどね、とカオリは、また頭を撫でてくれた。

「あんたは、私にとって、かけがえのない、必要な人間なんだよ」

撫でる手を止め、カオリは優しく抱き締めてくれた。