少しだけ、息が乱れた。


(大丈夫……じゃない)


一分、一秒でもいいから、この場から、この空気から、ナオヤの瞳の闇から、逃げ出したかった。



勢いをつけて立ち上がる。

「少し、外の空気吸ってくる」


きっと、うまくなんて笑えてない。でも、構いはしなかった。

ケーキを食べている2人の前を横切る。

心配そうなカオリとタケシを尻目に、私はサンダルに足をかけた。
急ぐあまり、つまづきかけたけど、酔っているフリだからと、気にしなかった。




玄関の外は闇。

遠くから近くから、夜虫の音がする。

アスファルトに座り込む。
夏の暑さが、溶け込んでいる。
でもなぜか、ホッとした。


でもなぜか、悲しくなった。



昔から、嘘と、場の空気を乱すのだけは、得意であった。