タマシイノカケラ

乱れた格好を直しながら、礼を述べる。

頭の中はぐちゃぐちゃだったけど、言葉は自然と出てきた。

「…取り乱してスイマセン。私…事故の瞬間見ちゃったんですよ」

「アラ、交通事故?」

縦に頭を動かす。

「仕事に行く前、交差点歩いてたら…先頭の人めがけて…車が…」

可笑しいぐらいに、スラスラと嘘が出てくる。

「跳ね飛ばされて…目の前に倒れて…体が痙攣して、頭から血が出てて…誰かが、救急車って叫んでました。揺すっても起きなくて…痙攣が止まって…目が──」

「もういいわ」

オバサンは、肩に静かに手を置いた。

「大変だったわね。…仕事も何も、手なんて付けれないでしょ。ゆっくり休んで、早く忘れちゃいなさい」

そのまま、肩を2、3度叩き、オバサンは、

「ゆっくり休んで、忘れるんだよ」

繰り返し語りかけ、部屋へと戻っていった。