タマシイノカケラ

流れていた景色が静止し、タクシーが黒のクーパーの前で停まる。

言われた通りの金額を財布から抜き取り、重い足取りで、タクシーから降りる。


外の風は強めで、私の髪を乱す。

ついでに心まで乱してほしかった。




タクシーが過ぎ去り、愛車の前で立ち尽くす。

小路には誰も居ない。
クーパーの隣、フェンスの上で三毛猫の野良が私を見ている。

尻尾を左右に振り、様子を伺っている。

目を輝かせ、私を見つめている。

動かない私と暫く、にらめっこをしていたが、途端に興味を無くしたのか、前足を大きく伸ばし全身の毛を逆立てながら、口いっぱいに広げあくびをした。

私の存在なんて忘れた様に、野良猫はトコトコとフェンスの上を歩き、建物の陰に消えていった。









──似ている、と思った。



今、一番思い出したくない人に。



目付きや仕草や、興味を失った後、私の前から姿を消した動きまで。




どうして、私の前から消えても、私の中からは消えてくれないのだろう。


猫の様に私に飛び付き、振り回して離れられなくしておいて、つまらなくなったら居なくなり、他のご主人様の所に戻る。