少しずつ、見えるミライ

悪代官にふさわしいイヤらしい笑みを浮かべながら、沙苗ちゃんはバタバタと部屋を出て行った。

取り残された二人の間には、何とも言えない沈黙が流れ始める。



もうさぁ.......

こういうの、本当に困るんだけど。

彼についてもっと知りたいとは思うけど、この手の場面を乗り切るには、やっぱり心の準備が必要だ。



でも、あれ?

私以上に彼が戸惑っているように見えるのは、気のせいなのかな。

様子を見る限りでは、どうやら、沙苗ちゃんと結託していた訳ではなさそうだ。



「.....とりあえず、片付けちゃおうか?」

「あ、はい。」



互いにソワソワしながら、並んで食器を洗う。

ちょっとドキドキするけど、同棲カップルみたいで何だか楽しい。



しばらくそうするうち、落ち着いて来たのか、彼は手を動かしながら、皿洗いをして稼いだおこずかいで、友達と東京に遊びに来ていた頃の話をし始めた。

聞いていて、やんちゃな高校生の彼を想像するだけで心が和む。

若さゆえの可愛いエピソードの数々に、思わず頰が緩んでしまう。



一緒にいてこんな風に温かい気持ちになれるのは、恋する気持ちを思い出し始めたからなのかな。

それとも、相手が彼だからなのかな。

自分の気持ちが、どんどんわからなくなって来る。